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欧州サッカーシーズンが開幕して大勢の選手が新たなクラブで一歩を踏み出し、日本の選手も名のあるクラブへ渡って挑んでいる。
よりレベルの高い環境で成長したいし、サッカーではオファーという評価を受けて移籍するときが、待遇が上がる一番のチャンス。だから選手はリスクを負ってでも外へ出る。現在の場所がコンフォートゾーン(居心地のいい領域)であっても。
イングランド・プレミアリーグでは今夏、20クラブが移籍金として投じた総額が35億ポンド近く(約7300億円)に達したという。これだけ活況な移籍の世界、ただし、なかなか一筋縄ではいかない。獲得側も選手本人もOKのはずなのに、意に反してこじれ、まとまらないケースもしばしば耳に聞こえてくる。
日本人が思う以上に、欧米のサッカー界はビジネスライクだ。選手はどれだけクラブに利益をもたらせるかで測られる。「勝利のために彼は手放さない」と表向きに表明してはいても、少しでも高く売れる売り時とみれば、クラブは売却をためらわない。
僕ら選手に知らされないところで交渉が進みもするし、知らない間に自分に対する移籍金が法外な額になっていて壁になることもある。僕がクロアチアにいたころ、やけに交渉が滞って不思議だったときがこのパターン。
移籍金という「値付け」が高額になれば注目を集めるけれど、高ければ高いゆえに足かせにもなるから難しい。
ロシアやトルコのクラブは移籍金支払いに気前がいい。日本の選手に30億円用意するのも惜しまない。ただ、選手はそこから五大リーグへステップアップするつもりでも、向こうは次に60億円で売れればという魂胆があるわけだ。
やたら高額になると、強豪クラブでもリスクを恐れて手を出しにくい。かたや所有するクラブ側は「額はこれ以上下げない」。こうなると選手は動けない。下手をすると契約満了で移籍金ゼロになるまで待たねばならないなんてことも。
やがて政治の力も働く。経営陣や上層部が「出て行く前提のあいつは使うな」と含み置く選手を、海外の監督はよほどでない限り起用しない。レベルや地域を問わず起こることで、ポルトガル2部オリベイレンセでもこうやって干される選手がいた。
クラブと選手の間で暗躍する仲介屋も現れる。イタリアには「マフィオーゾ」(マフィアのような存在)と称される人たちがいて、ブラジルも似たようなもの。
聞きかじったところでは、マフィアとはシチリア島(イタリア)に端を発する固有の概念で、もともとは「火消し役」のような人を指したらしい。国が自分たちを十分に守ってくれなかった時代、こじれる案件の間に入って解決できる力を持った人々、といったところだろうか。
それが転じて違法な事業に手を染めるようになった「マフィア」そのものはサッカー界にいないとしても、仲介の力を悪用して私腹を肥やす類いの人は出てくる。クラブと選手の間に「まあまあ」と入ってきて、もめそうな話を裏でまとめるフィクサーが影響力を及ぼした歴史も少なからずある。
きな臭くドロドロした世界でもあって、クリーンな移籍話の方が少数派かも。カネありきのマネーゲームも度が過ぎると、ファンも嫌悪感を催してしまうだろう。
クラブには第1、第2、第3と獲得の優先順位がある。移籍期限の最後の最後で日本選手の話がまとまりがちなのは、まだまだ優先順位が低くて後回しになるからだろうし、第1候補でなければ日本の選手に100億円を超えるような獲得資金はなかなか割り振られない。
実力は同等なのに、日本選手だと20億円、ブラジル選手だと80億円と値踏みされる。合理性のある区別なのか、差別なのか判別しがたいけれど、それも現状。ブラジルの選手にはプレミアムがつく歴史的な実績、ブランド力があるわけでね。
かくも大人の事情があるけれど、その悪路も切り開くタフなプレーヤーになるしかない。日本の選手も、徐々に慣れてきたと思う。
日本人指導者が世界で実績を上げ、日本人の代理人が海外勢とハードな交渉で渡り合い、欧州クラブで日本人実務家が辣腕を振るう。そんな未来へ日本サッカーは進んでいくと思っている。
Jリーグができて30年、僕らの時代で日本のサッカーはずいぶんと変わった。これから30年はさらに変わっていくはずで、また違った地平が開けるんじゃないかな。アジアや日本の人材だから欧米と比べてどうこう、といった優劣の固定観念も、過去のものになっていくだろうね。