BOA SORTE KAZU

  • Home
  • Message
  • Profile
  • Status
  • Column
Menu

BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2026年05月08日(金)掲載

“サッカー人として”
2026年05月08日(金)掲載

毎ゴールがサヨナラホームランという喜びを

 5月15日はJリーグが1993年に産声を上げた日で、これから僕らは34年目のシーズンへと走ってゆく。


 全60クラブの年間総入場者数は1300万人を超え、J1の1試合平均入場者数は2万1千人に達しているという。ただ、そうしたバロメーターが社会からの認知を忠実に反映しているのかなって、気になるときもあるんだ。


 こんな記事を目にした。12歳から21歳、いわゆる若い年代にテレビやスマホ端末などのメディアで観戦したスポーツを尋ねた調査によると、プロ野球やバスケットボール、卓球が名を連ね、Jリーグはベストテンに入ってこない。「見た」と答えた割合は10%以下。その世代が10年、20年後に社会の中心を担うと思うと、危機感が湧いてくる。


 プロバスケットボールBリーグは各地で盛り上がっていると聞く。福島にもクラブがあることは僕も存じ上げている。ただ、所属選手を逐一挙げよとなると、自信がない。いまBリーグ1部の全クラブを述べなさい、となると恥ずかしながらお手上げ。


 じゃあJリーグ、サッカー日本代表だと違うだろうか?


 「知りません」と返答がくるJクラブは、僕らの想像以上に多いんじゃないか。「今のJリーグの顔は」の問いに、人々から即答が返ってくるかな。


 認知度なるものはプレーレベルとは別物で、近年の日本の選手の質が高いことは論をまたない。でもともすると、「日本代表の顔」として最も挙げられるのが森保一監督になっちゃうかもしれない。


 野球や大リーグは毎日試合があり、なんやかやと報道が途切れない。A選手は4打数2安打、何勝目――。大リーグにいる日本選手の動向も耳に入る。サッカーは原則、週に1回、そこで「B選手がパスを2本、通しました」じゃあニュースにならない。多くの選手は報道の網からこぼれ、主役から外れてしまう。


 三重県で過ごした3年ほどの間、ラジオをつければ中日ドラゴンズのニュースが毎日流れてはいても、名古屋グランパスのトピックを耳にしたのは数回ほどしかない。はやりのスイーツやエンタメに詳しそうな女性パーソナリティーが、ごく自然に「なんであの場面で、内角にカーブを投げちゃうんでしょう」とつぶやく。同じ人が「なぜ福島ユナイテッドの選手は、あの場面でバックパスしちゃうんでしょう」とぼやく姿は想像しにくい。


 そんな一事をもっても野球は国民的スポーツで、文化として確立している。近づけたかにみえて背中は遠く、サッカーはまだまだ。目指すところをもっともっと上に据えたい。


 Jリーグができたての1993年、国立競技場では試合のたびに5万5千人であふれた。作れば売れるとばかりに、営業努力なしでもお客さんが来てしまう。


 ある日、矢沢永吉さんが打ち上げで大阪のとあるクラブを訪れていた。なんだか会場がざわついている。従業員いわく「Jリーグのカズが来るらしいです」。ボルテージは最高潮、人だかりでステージを見通せやしない。「ねえ、ロックじゃないのかね? サッカーなわけ?」。永ちゃん節でつぶやいて、サッカーの波が押し寄せていると実感したんだって。

 
 その波は3年持たなかった。はじけないバブルはなく、ブームは永続はしない。


 それでも、ブームとは違うかたちでJリーグは根を張ってきた。地域とともにという理想と志のもとに着実に前進してきた。競技水準、プレーヤーの質、社会における存在価値、メディアの規模から人々の興味まで、これだけ色々なものを変えることのできたリーグは例がない。


 5月3日の大宮アルディージャ戦。試合時間がついえかけ、追い付けるか、追い付けないかの瀬戸際で同点ゴールが決まったとき、会場は子どもも大人も大騒ぎだったという。あの高揚感、興奮、熱狂を僕らは提供し続けたい。


 結末として、歓喜の2分後にまさかの一撃を決められ打ち負かされる。でも有頂天から失意の底へというあの劇的な転変も、日常ではまあ遭遇しない、スポーツだから味わえる非日常性だと思う。


 サッカーは得点が入りづらい。その分、1得点のもたらす喜びは増幅される。スコアがどんどん積み重なる競技だと1得点くらいでは喜べないだろうけど、サッカーでは毎ゴールがサヨナラホームランみたいなもの。


 ノズルが絞られると飛び出す水は勢いを増すように、観衆はその1得点に感情を放出させる。コスパが悪いとも言われるけれど、だからいい、とも言えてね。


 そんな舞台へ最初に上がって33年。今もステージに上がれることが幸せです。