BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2025年06月20日(金)掲載

“サッカー人として”
2025年06月20日(金)掲載

武器を武器として繰り出せているか

 6月15日の試合で今季初めて出場して、プロとしての40年目を、改めて踏みしめているような気がする。


 調子はどうですかと聞かれれば「悪くもなく良くもなく」で、というのも、自分のコンディションと客観的パフォーマンスはまた別のものでもあるから。


 自分としては絶好調でも、試合に勝てるとは限らない。自己診断ではイマイチという状態のときに監督やコーチからは称賛されることも。成果・結果なるものはかくも不確実で、だからこそ、よりどころにするなら決まった日課や習慣、ルーティンだと思っている。


 鈴鹿のある試合の前日、僕がなじんでいる調整メニューを仲間とともにこなして臨んだ。効果あってか、同僚らは体が軽かったらしく「今週もやりたい」と言う。それもいいけれど、と僕はアドバイスした。「先週うまくいったから次も、ではなく、自分のルーティンを確立するほうがベターだぞ」


 同じ状況や環境が毎回訪れるかは分からない。調整する時刻、移動の有無、思ったより暑い、涼しい。微細な条件の変化にも左右されないルーティンを、自分のなかでつくっておく。


 2試合で1点のペースで得点できるFWは年間ほぼ20得点、10億円プレーヤーになれるだろう。そうは言っても180分で1ゴール。「180分の1」のために彼が練習でシュートを何本打ち込み、どれほどの時間を費やしていることか。選手が90分間の試合でボールに触れられる時間はたかだか計2分間。そうであっても、2分を輝かせるルーティンを自分なりに探していく。


 40年やってきて、どんなやり方がベストなのかの答えは出せない。成功したからOK、失敗なので間違いというものでもない。正解が1つではない世界で、目標や問いにどう臨んだかというプロセスに僕らは注力する。常日ごろの行動や準備をそれに費やせてこそ、プロじゃないかな。


 プロは「これで勝負できる」という武器を携えて生きる。それ以上に大事なのは、その武器を肝心な場面で出せるかどうか。


 プロ駆け出しのブラジル時代、ブラジル代表とピッチで対峙し、ドリブルで尻餅をつかせて抜き去れたとき、自分のドリブルと切れ味は通用するんだと実感ができた。どんなDFだろうと、この武器には相手を怖がらせる効き目がある。勘違いだったかもしれないけどね。


 監督は僕の武器そのものより、失敗しようがめげずにドリブルを挑むメンタリティーを高く買った。うまい選手ならばプロにはごまんといる。巡ってくる機会で武器を繰り出した僕は、勝負し続け、小さな成功体験を積み上げてプロの道を切り開いていった。


 特長、やれることやれないこと、得手・不得手。おしなべて自分をよく理解できているか。それがいい選手の条件なんだ。僕の場合、ちゃんと考えるようになったのは体が20代のようには動かなくなって以降だったんだけど。


 最近の日本代表、例えば久保建英選手を見てみてください。立ち振る舞いや言葉ににじみ出るもの。トップレベルは体・技があるだけでなく、よく考えることのできる人でもある。24歳、会社員ならまだ重要な仕事は任されないかもしれない年齢だとしても、です。