BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2010年12月03日(金)掲載

“サッカー人として”
2010年12月03日(金)掲載

身体能力がすべてじゃない

 僕が初めて日の丸を背負ったのは1990年北京アジア大会だった。日本サッカーはまだ夜明け前。サウジアラビアに歯がたたず、まるで大人と子供くらいの違いが横たわっていた。


 わずか2年後、日本は広島開催のアジアカップで優勝する。協会のサポート、国民の期待、メディアの扱い。すべてが変わり、選手の意識はプロになった。サウジアラビアにも雪辱する。今思えば恐ろしいほどの変化のスピードだったね。


 そして今、日本はアジアでワールドカップ(W杯)に連続出場する立場になった。だけどそれでアジアの戦いが楽になるわけじゃない。力の差を認めたチームが、自分の良さを消してまで相手の良さをつぶしにくるのはサッカーの常。実力差に関係なく苦戦になる。


 アラブという、日本とは異質のサッカーとも直面する。身体能力なら彼らの方が上。でも、サッカーが身体だけで決しないことは、先月のアジア大会決勝で日本代表がアラブ首長国連邦(UAE)を前に示しているね。


 「50メートル走が5秒9です」。先日、横浜FCの練習に参加した大学生FWがこんな自己紹介をした。日本人は「うわあ。速いなあ」と感心するところ。隣のブラジル人選手は怪訝な顔だ。「5秒9? 何でここに来たんだ? 陸上競技でもすればいいじゃないか」。俊足とサッカーはブラジル文化では結びつかない。


 柏レイソルの33歳SBと横浜FCの20歳MFがリーグ戦でマッチアップした時。相手にちぎられてクロスを許したのは足の速い若者の方だった。ボールなしで競走したら20歳が完勝するのに、ピッチではタイミングひとつ、緩急ひとつで勝敗は変わる。


 1980年代後半の欧州サッカーを席巻したオランダトリオ、長身のフリットは僕に嘆いたことがある。「ミウラよ、ペレは身長170センチ、マラドーナはもっと低い。我々の大きさで彼らほどの存在になった者がいるか?」。メッシもそうだし、この世界で天下を取る人間は得てして小さい。W杯米国大会ブラジル代表のFWロマーリオも小さかった。その彼が身長190センチのスウェーデンDFたちの間でヘディングでゴールを決める。スピードや体格は確かに武器、でもそれがすべてじゃない。大事なのは「サッカーを覚えること」なんだね。