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サッカーのピッチ上でうごめく「流れ」なるものは、ときに御しがたく、手に負えない。改めて思い知らされた11月16日の大逆転負けだった。
残り2試合で迎えた日本フットボールリーグ(JFL)のホーム最終戦。降格圏間際の下位に沈む僕らのアトレチコ鈴鹿は、Y.S.C.C.横浜に勝てば残留をつかみ取ることができた。前半を終えて2-0。見守ったサポーターや知人たちは「これで大丈夫」と楽観したんじゃなかろうか。
それが、1点を返された途端、急流にのみ込まれるように転落していった。78分、86分、87分。わずか10分ほどのうちに「まさか」の3失点。
Y.S.C.C.横浜も残留か地域リーグへの降格かという瀬戸際にあって、負ければ大ピンチ、引き分けでは十分でなく勝利が必須だった。だから追い付くだけでは満足せず、攻勢のアクセルを緩めなかった。同じ「1点を返す」でも、1-0からと2-0からとでは勢いの付き方が違う。彼らは白星でJFL残留、鈴鹿の残留確定は次節・最終節に持ち越しに。
これがもし、横浜が引き分けでもオッケーの状況であったら、どうだっただろう。2-2の同点としたところで一息ついたんじゃなかろうか。そこから新たな思惑、駆け引き、心理戦が両者の間で引き起こされ、結末が書き換えられてもおかしくない。
流れがもたらす人知を超えたシナリオを、今回の鈴鹿とは逆の立場で横浜FC時代に体験したなと、思い出した。2016年8月のセレッソ大阪戦のことだ。
アウェーの横浜FCは劣勢も劣勢、好き放題にやられて早々と見事なゴールを決められ、2点目も奪われて散々な内容だった。相手はエースを引っ込めて楽勝ムード、69分に僕が交代出場で出てきたら、会場は余興でも歓迎するかのように拍手で迎えるありさま。
0-2での横浜FCベンチ裏で、僕はみんなに声をかけていた。「今日はここにいる俺たち控え組で変えるしかないぞ。準備万端にしておけよ」
ピッチに入って6分後、左サイドから僕が相手をかわしてゴール右隅へワンショット。この1ゴールで場の空気がガラリと変わった。横浜FCは寝ぼけから目覚め、僕がサイドへはたいたパスを起点にクロスから2-2の同点ゴール。締めくくりは、これまた交代投入選手による後半追加タイムでの逆転ゴール。
「サッカーで2-0は危うい」とたしなめられる通りで、0-2から1-2になると追う側は「これでよし」ではなく「もっといける」と心身にスイッチが入る。こうなると自分たちでも抑えられないほどその気になって、20分ほどで難敵からとんとん拍子で3ゴールも奪ってしまう。やっている当人たちさえ想像しにくい筋書きだよ。
2点もリードがあり優位のはずが、一事をきっかけに優位が脅かされていく。逆に、苦境でもしかり。なんでもかんでも流れで片付けることはできないけど、一人の力を超えた力学が戦いの現場では働きうることは、的外れでもないんだね。
この力は、ちょっとしたことで手元に寄ってもくれば、離れていきもする。ゴールキックでGKのキックが、造作なしにタッチライン外へ出て、みすみすマイボールを手渡したとする。それ自体は大事には至らぬ、バグみたいなもの。でもこうした凡ミスは小さくない波紋をピッチに投げかける。
気の抜けたプレーに周りが不信を抱き、表立たぬ経路で作用を及ぼすのかもしれない。ともあれ、小事から流れが向きを変えた試合ならば数々思い当たる。つまらないミスほど、一番やってはいけないんだ。
だから熟練者は、取るに足らなさそうな、ささいな一事をおろそかに扱わない。ピッチ内で自分たちが力関係で上だと感じ取れたとしても、うまく事が運んでいる状況でも、慢心しない。小さな油断は大きな代償となって跳ね返りかねないから。
スパンを1試合の90分間から、1シーズンへと広げてとらえ直してみると、鈴鹿は思うに任せぬ流れからずっと抜けきれないままだった。
まだシーズン中盤のころ。JFLで長らくリーグ幹部を務める方が観戦して、鈴鹿のフロント陣にささやいたらしい。「入れ替え戦で使うスタジアム、予約した? そろそろ考えた方がいいよ」
冗談はきついですと笑ってやり過ごしたみたいだけれど、伝え聞いた僕は「笑えないな」と気にかかっていた。JFLチームの盛衰・哀楽を見守り続けてきたその方は、鈴鹿の負け方に、降格するチーム特有の気配を嗅ぎ取ったんだろう。
得点、勝利への突破口を見いだせない。終盤に失点、競り負けてしまう。2-0からひっくり返されたのは象徴的でもあり、不思議ではない。ブラジル代表が2-0から急転直下で日本代表に逆転されたことも、不思議とはいえない。
戒めたいのは、流れめいた力学を、うまくいかない現実への言い訳にすること。「流れは理不尽だ」で思考停止してしまっては進歩がないよ。
J1から降格するチームがあり、そのJ1やJ2へはい上がろうとするチームの挑戦は大詰めを迎える。鈴鹿も最終節は、JFL残留か入れ替え戦へ引きずり込まれるかの崖っぷちにある。
「こんなしびれる戦いができて、いいじゃないですか」くらいの気概で、悲観も過信もせず、流れさえも敵ではなく味方につけたい。