BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2017年08月04日(金)掲載

“サッカー人として”
2017年08月04日(金)掲載

「戻る場所」なんかない

 ネイマールが約290億円の移籍金でFCバルセロナを去ることが決まりつつあるらしい。金額はちょっと僕らには想像できない域に達している。それだけの評価がされるのなら、そうなのだとしか言いようがない。


 高い、安いは値付けをする人が決めること。ネイマールほどになれば交流サイト(SNS)のフォロワーが億単位でいる。著名企業でもこれだけの人を引きつけられるかどうか。今はなおさらネット上での発信力が価値に換算されるはずだし、回収できると考えるから投資するのだろう。


 旅から旅へ、自分に一番の価値を見いだしてくれる場所へゆく。僕らの世界ではごく普通のことだ。野球と違って個人成績を数字で表しにくいサッカーでは、収入を上げる一番のチャンスはより高額のオファーが他から来たときになる。


 ただ、お金が良ければすべてよしでもない。すごい金額で移籍すれば凡庸な活躍ではダメ、それだけのものを背負う挑戦になる。そして最後に自分で決断する。うまくいかなくても「自分が決めたことだから」と思えなければいけない。


 早けりゃ3カ月で居場所は変わる。僕がブラジルにいたころは契約の最短期間が3カ月。それだけで次の職場へ、という助っ人も多くてね。サントスと契約した僕も出番がなくて下のカテゴリーへ身を移し、どうはい上がるかという挑戦だった。人生を1年スパンでは考えられなかった。ここでダメならプロとして終わり、後がないという切迫感。3カ月同じところにいると停滞のような。同じ1年間や3カ月でも、いまとは中身が違ったね。


 目的地はサンパウロ州選手権などの1部。「ここではない」と、いつも引き抜かれることを意識していたわけだ。いま与えられている出番、その場、その一瞬はプロとして自分の価値を上げる場だと常に考えて、人の目にとまるくらいでなければと思っていた。そこは日本の選手にまだ足りない部分じゃないのかな。

 「成長して戻ってきます」と横浜FCから旅立つ若い選手たちが言う。でも僕らは「ここから戻らないでくれ」と新天地で頼まれるくらいでないとね。戻ってくる場所などないのだと、片道切符を握りしめながら。