BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2017年07月07日(金)掲載

“サッカー人として”
2017年07月07日(金)掲載

勝ちにムキになってみては

 業績の悪い企業ほど、ミーティングが多くなるらしい。サッカーも一緒だね。全員で集まって、ビデオを見て、反省して、ああしようこうしよう……。そんな場面が増えるのはチーム状態がよろしくないときだ。


 そういうときは、接戦で追加タイムにPKを献上したりする。いい流れに乗れているときは、負けそうなタイミングで逆にPKが転がりこんでもくるのにね。


 連敗癖、連勝癖。思えば全盛期のヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)のころは「負けるわけがない」としか考えなかった。油断や過信とは違う種類のもので、試合中も始まる前の段階でも「自分が一番で、勝者だ」と信じられた。自分は勝てる、と自分自身で思い込めるメンタリティーというか。


 先に1点を入れられる。「ああ、今日も勝てないのか」としょんぼりするのが連敗中のメンタリティー。常勝時代のヴェルディだと「どうせ逆転して、最後は勝つだろ」とみんなが思っている。観戦していた友人に言わせれば「先制された事実も忘れていた」と。


 自分は勝てる、と思い込めるほど練習の一コマから勝ち負けにこだわってきた。ブラジル人の何が強いかって、名選手もおしなべて、何気ないミニゲームや遊びで目の色を変えて勝利にムキになれるところなんだ。5月に来日し、フットサルに興じたネイマール。味方のミスに怒り、得点を入れられれば「今、何点差だ?」と気が気でない。フェイントもシュートも思いっきり。お遊びのイベントで、欧州チャンピオンズリーグと同じテンションなんだもの。相手側にうちの息子が入ったら、すっ飛ばされた。幸せ者だよ。本気のまた抜き、僕もされたいよ。


 勝てると思い込める人間は、状況がどうなろうが自分のすべきことをできる。ボール扱いがすごくてドリブルも速い人なら、草サッカーにもいるんだ。でも勝負のかかる重圧、環境の良くないハンディ、連敗中の逆風のもとでも、同じく平然とできるか。先輩の輪に放り込まれ、罵声を浴び、自由のきかぬピッチでも、剛速球を投げてホームランを打ててしまう人間がその道のプロになっていく。


 ブラジルへ渡ってすぐの15歳のころ、寮メンバー総出で夜の社交場へ繰り出す催しがあった。僕は断っていた。「夜遊びや女にうつつを抜かすな」という祖母との約束があったからね。


 結局、約束は1年しか守らなかった。遊びたかったわけじゃない。ライバルと同じ世界へ飛び込む度胸もないようでは、この地では勝ち抜けないと覚悟を決めたからだ。その日から僕はブラジル人になった。


 本気でこだわることで、見えてくるものがあるんだ。