BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2016年06月24日(金)掲載

“サッカー人として”
2016年06月24日(金)掲載

水面下の積み重ねこそ

 60分間出場してもボールにほとんど絡めないのに、たった5分間でも「今日は点が取れそうだ」と感じられるときがある。チームの流れ、自分の流れ。6月19日(2016年)の岐阜戦がいわゆる後者だった。


 重なるように僕のコンディションも上向いていて、ヘディングでの得点が生まれた。去年(2015年)の二度の肉離れはもう尾を引いておらず、怖さはない。瞬発力の反応も上々。ケガをせず継続して出場できれば、いい風向きに乗れる手応えがある。


 人生ではどこかでリズムを狂わされる局面に出くわすものだ。予想外のこと、自分ではどうにもできない要素。常にいい風ばかりは吹いてこない。試合に出たり出なかったりが繰り返されると、自分が流れに乗りかけていても引き戻されることもある。継続性が途切れれば、メンタルだって安定しなくなる。


 でも、そんな風にぐらつかされながらも、心を崩さず、続けてやっていく。大リーグのイチローさんにはそんな力をいつも感じる。


 体は油断すれば衰える。やらなければならないことが次々と頭に浮かぶ。筋トレもやんなきゃ、チューブトレーニングも……。24時間では時間が足りないくらいだ。ただしそれらを全部詰め込むのも危うい。人間、やればやるだけ消耗もする。一つだけを大量にやってもうまくはいかない。「負荷をかけたいけど、どう?」「いや、バーベルは6枚でなく5枚でやめてください」。トレーナーと一緒に迷って、取捨選択の連続だ。量の多少だけでなく、バランスよくルーティンを改めていく。表に出ないプロセスが今季第1号ゴールには潜んでいるんだ。


 ボールを右、左と交互に出してもらって、振り子のごとく往復してシュートする。そんな居残り練習をこの1カ月、地道にやってきた。トレーナーに球を出してもらい、若手やGKにも付き合ってもらって、入れた本数を競って盛り上がりながら。本数にして何百本にもなるのかな。


 この練習と同じシュートシーン、試合でまだ一回も巡ってこない。ゴールはなぜか、練習で一回もしてないヘディング。何とも非効率ですんなりといかないこの流れ。だからといって、やめません。何百回で一回報われるかどうかの水面下のプロセスを、見ている人は一部しかいない。それを「評価して」とは思わない。感覚を研ぎ澄まし、内なるリズムを保つために僕はそこに向き合い続ける。


 小さな積み重ねが、大きなところへたどり着かせてくれる。イチローさんが日米通算4,257安打という形で教えてくれているね。