BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2010年08月13日(金)掲載

“サッカー人として”
2010年08月13日(金)掲載

1分のために汗を流せるか

 7日(2010年8月7日)のファジアーノ岡山戦のゴールには多くの祝福をいただきました。「あんなバックパスが転がり込むのはカズさんだけ」。プロで16年間プレーして引退した元同僚は不思議そうだった。VTRで見返すと「そこしかない」というコースへシュートが飛んでいる。技で決めた、左足でのいいゴールだったね。


 J2で10位のチームの1ゴールが、J1の首位攻防戦より扱いが大きくなった新聞もあった。「カズさんって一体何者?」「カズだから仕方ないか」――。そんな風に話題の対象になれることがうれしいです。


 冷静に振り返ると、ゴールのマジック、怖さを感じてもいる。あの日は数分しかピッチに立っていない。ボールにはたった2回、2秒ほど触っただけ。ゴールを除けば満足できることなど何もないんだ。ところがゴールさえ取れば「すべてよし」となりかねない。そこに至るには数々のプレーがあるはずなのに。よくよく考えると恐ろしいよ。


 ゴールが決まるか決まらないかなんて紙一重。それが人生も左右してしまう。ワールドカップ(W杯)日本代表もそうだった。カメルーン戦での本田圭佑選手(CSKAモスクワ)の一発が、チーム、監督、選手、あらゆる日本の評価を変えた。そんなワンプレーの重みなら僕も幾度となく味わっている。だから若い選手には伝えるようにしているんだ。「一つのプレーですべて変わる。評価だって一変するよ」。あのW杯、そんなメールを中村俊輔選手(横浜F・マリノス)に送り続けた。


 岡山戦のゴールに戻れば、あの1分のためにこの半年があり、あのゴールのために僕のプロ生活25年間があったのかもしれない。1分のためにどれだけ汗を流せるか。その大切さを再び教わった気がしている。


 スポーツは失敗の繰り返しだ。サッカーのシュートなんて20本打って1本入るかどうか。「あれを入れていればどうだったか」「あれを外していたら今ごろは」。僕も色々と思い当たる。何事も失敗する確率の方が高いんだから。


 それでも、いいことが起きたときの喜びは苦しいときの悲しみに勝るもので、総じてみれば人生は成功も失敗も五分なんだ。そこで、あきらめる人とあきらめない人の差が出る。僕はあきらめないよ。またゴールを取って勝ちたいね。