BOA SORTE KAZU

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BOA SORTE KAZU

“サッカー人として”  2020年03月13日(金)掲載

“サッカー人として”
2020年03月13日(金)掲載

モラルの線引き

 新型コロナウイルスの感染拡大で、僕らは30日近く、試合の巡ってこない日々を過ごすことになった。


 アスリートはずっと気を張り詰めたまま、ピークのままでいられ続けるものではない。試合をして、休み、再び状態を上げていき試合前でいったん負荷を緩め、本番で100%を出せるように合わせていく。試合というターゲットがないと、どこでギアを上げ、下げるかの波をつくりづらいんだ。


 リーグが開幕し、身も心もできあがったところで中ぶらりになった。もう一度シーズン前へ戻って体を作り直すわけにもいかず、気の持ちようも難しいね。


 いま僕らが置かれている状況は、9年前の東日本大震災のころと似ているかもしれない。あの時も感じたことだけど、そこではスポーツが「なくてもいいもの」に思えてくる。まず人命を守る、マスクなど必需品を行き渡らせる。比べれば自分たちの価値ははかなく、自粛に次ぐ自粛へと傾くのも無理もない。


 それでも時がたち、不安も拭われたならムードも変わってくるはず。健康なら元気に体を動かそう、遊んだっていいんだ、と。スポーツを通じて競い合い、勝ち負けに喜び、泣き、怒って、笑う。そうした楽しみも生きるうえでは必要だろうから。閉塞したままではいられず、明るさを求めたくなるのが、生き物としての人間の本質じゃないのかな。


 試合がなくなり、生じたオフに家族と食事へいく。「外出自体を控えて」との声に意を留めながら。でも大勢が集まりはしない場で、必要な注意を払いつつ、健康な人同士で誕生日を祝うことまでも“悪い”のか、と息子に問われると僕も正解が分からなくなる。


 マスクを転売できるのは高値でも買い求める人がいるからで、品薄の背後には必要以上に買い占める人がいる。それらはなじるべきことというより、人間に備わる残念な本質なんだろうと思う。誰でも切羽詰まれば買いだめをしかねず、もうけの誘惑に負けかねない。だから自分のこととして考えてみたうえで、何は控えるべきで、何はOKか、判断していきたい。


 ともかく今は取り乱さず、自分にできることを。しっかり手を洗う、せきエチケットを守る、キスは1日10回まで、ではなくて控えめにするとか。全面禁止となると人間には難しいだろうからね。こんな時でも、明るさまでは失わずにいたい。